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鷹の目期~犬の鼻期
僕には、集団の中にいたいという願望があるように思う。
明確な連結や厚い信頼関係を感じていたいというのではなく、
ただ、砂やビーズの一つの粒としてまぎれて、輝くこともなく静かに物事を見ていたいという気持ちだ。
僕が今こうして猫達の群れにまぎれていることも、子供達の味方をしたことも。
召還士という女子に協力するのもそうだ。
僕はもし「彼女」という人に召還されていたなら、きっと何の疑いもなく彼女の味方をした。
そういえば僕は、いじめを見てみぬ振りする。そういう性分なんだろう。
それから集団に紛れさせてもらう代わり、頼まれれば力を貸す。
目立つことはいい気がしないけれど、人に頼られるのはきらいじゃない。
僕はそう、そうして生きることに不満はない。
けれど、そうしたことが産む事象について責任が持てないのが、ちょっとした不安ではある。
僕が十とそこらの頃、僕は不老不死になった。
年老いて死なず、ではなく、年をとらない。
それだから僕はたらたら複雑な術の開発ができた。
多分僕の人生らしい人生という物は、獣化術を完成させるまでだった。
術を完成させるまでは夢中になって、世界中歩き回って知恵を集めた。
今はもう、そんな夢中になれることが思い出せない。
この先はただ、生きるには長い、死ぬ程辛くもあるわけでない、暇つぶしに術を研究してもいい、そんな悪くはない日々がある。
僕自身は、不老不死のデメリットとして、成長出来ないという事が一番大きいと感じている。
僕がせめてもう少し大人になってから術を行使したなら、
(でもそれはない、僕が大人だったなら、大人の味方をしただろうから。)
僕がもし普通の生き物と同じように成長できたなら、と、思うけれども、思うだけだ。
この年から獣化術を完成させ、賢者と呼ばれる僕―
僕がもし普通に成長できたなら、と、大それたことが思い浮かぶ。
でも、獣化術は…小さなミスや、細かな式の加筆修正、を何百年も続ければ
安定した一本筋を通せる、ほとんどそれだけのことなんだったから、
それから獣化術完成の大きなヒントとなった、絶滅した獣人の一種が、僕らの時代にはいたんだから、
さして凄いことでもないんだった。
それが結果的にああして、戦や生命活動の色々に大いに役立ったため、賢者などと呼ばれ英雄視された。
目立つのは好きでないので、当然居心地悪く、又―
僕の出生や、不老不死について触れられるわけにはいけないもので、さっさと身を隠した。
僕の作った術が人々の役に立つのは嬉しい。僕だって人々のうちの一人だ。
けれど僕はいわゆる、善意や利己的な意味でそれをしない。研究が面白いからするだけだった。
求められれば断らない。
ただ、厄介ごとになる気がしたから、身を隠す。
それに、人生らしい人生を終えてしまった僕は、やっとのこと新しい面白いことを見つけた。
---------------
他の猫の国の者達は、最前線まで狩りに出るのら猫達とは違い
いつも自分達が呼び出された場所の付近でのんびりと遊んでいる。
のら達の治療の手が空いたけんじは、久しぶりにその場所へ向った。
やがて着いた滞在地点は、いつのまにか不自然に整頓され
四角形の小広場の中央には、小さなやまになってレンガが積まれていた。
「わあ、これは、なに?」
「あっけんじ!知恵を貸してくれるの?」
「散歩だよ。怪我があったらなおすよ。」
「そうかあ…じゃあ、いいや。これはね、かまどだよ!」
「かまど」
「ここのとこ開発してるんだ。カステラを焼くんだ。」
図書館に忍び込むとはたきでたたかれるんだけれど、と付け加え笑う。
かまど?の周りを一周するように眺めると、マジシャン用かなにか、小さく軽い盾で蓋をされた面を見つける。
その盾をどけ中をのぞいてみるとなるほど、中はススだらけ、しかしパイプを捻じ曲げたエントツらしきものが繋がっており、
関節に楔を打ち込んだアーチ型で接着材料もないのにかなり丈夫そうだ。
「色んな石を集めたね。大変だったろう」
「集めただけじゃないさ。割るんだ、力と角度のコツでね、思ったように割れるんだ」
「へぇ!」
「ってユキがいってた。オイラは材料集めあんましないんだ。
みんな火が怖いっていうから、オイラがずっと実験担当!」
「実験好き?」
「好き!一番わくわくするよ。二番は人間に抱っこされてる時…でもあれは、わくわくじゃないかな?はぁはぁ?」
「みんながよってこないよ」
「火を持ってるからさ。」
「そうかな?」
「発情期がないのはおかしいぜ」
(そういえば、ここの猫はいつのまにか繁殖しなくなったなあ
子供達…僕らは、生殖能力がないまま年をとらないんだから、繁殖はできない。
でも確か、ずっとむかし、王国で子猫を見たことはあったんだ)
「ミケくんには発情期が来るの?」
「こないよ。人間に対するオイラの愛情は、なで繰り回したいというか、マーキングしたいというか、
美味しい物食べて欲しい、笑ってて欲しい、猫が好きならオイラを思う存分可愛がらせてやりたい、とか、親ばかみたいなもんなんだ」
「そっか」
「かわいいぃよね、ニンゲン
あ、何、かたっていいのならニンゲンの魅力についてしゃべろうよ!おやつとってくるよ、ニボシだけど」
「かまどはいいの?」
「よくない。でもこれだって半分はニンゲンに食べさすんだって思って、オイラ作るんだ」
「ミケ君は勤勉だね。こうやって腰をすえてはなしをするようなことが好きだし、本を読むんだって?」
「学習は面白いよ。でも、オイラ、いらいらすることもある。
絵の多い本じゃないと理解できないし、この間けんじが言った、数学やなんかは本当に、
本を読んだり話を聞いてると理解してると思うんだ。
でも実際に問題を解いて見ると、全部間違ってる。猫の脳は小さい」
「脳の大きさじゃないって言うよ。比率なんだって」
「じゃあ猫の世界は小さい。猫の脳はのろま。」
「ミケ君は凄いと思うよ」
「けんじがそういうならそうなんだろう。でも、なんで?」
「のら達は狩るものがなくなるとお互いを切り裂きあうよね?
狩りの練習ということだけれど、実際にあれで命を落とすものだっているんだし。
でも皆ミケ君には手出ししないじゃない。」
「これからはタカがいなくなったから解らないよ。」
晴れ晴れしているようなくちぶりだった。
「仲がよかったの?」
「仲良くないよ。でもオイラたち、本当にちびの頃、同じおっぱいを飲んだんだよね」
「ええ、兄弟なの!」
「ううん。けんじは覚えてるかなあ。
あの鼻の頭が真っ赤なニンゲン、茶色い髪の。あのニンゲンのかちくをいっぱい飼ってる所があって
オイラ達あそこの山羊にお乳をもらってたんだよね」
「たくましいね」
「おいら達だけじゃないよ。色んな猫がかわるがわる来たよ。」
ミケ君が首をかしげる。
「あれ?ああ、そうか。けっこう、好きだったのかも知れない。
オイラ覚えているの、タカだけだ。あそこにいたの―」
「ああ…」
「いやな物を見る目で、会話もしたくないみたいだったけどね
オイラに限らずのら達があまし他の猫に手出ししなくなったのはタカが君臨してからだ。」
「そうなの?」
「ちがうの?」
「しらない。」
「ひいきで見るのかもしれない。」
(ミケ君は猫の死についてなんて思っているのだろう。あるいは、死を知らないのかな。
タカがいなくなっても、邪魔者がいなくなったみたいに、清々した顔して。
昔を懐かしむ様子には、タカがきらいだという風は取れないのに。)
攻略の時間が近くなってきたので、けんじは丘を登る。
猫達と完全に離れたら、もっと効率のよい生き物にでもかわって、一気に駆け抜けよう。
後ろから焦げたにおいとともに、ミケの声が聞こえる。
「けんじはオイラを好きだというけれど、それはオイラが善い奴だからだというなら、
それはちがうよ。」
「そうなの?」
「猫なんてものは、みんなうそつきだ。」
「生き物はそうさ。」
「だけど!オイラ、知ってるんだ。
オイラ達がひっきりなしにがっつくから、あの山羊のこどもは死んでしまったんだよ。」
「…」
「それを覚えているということが、ミケ君が善い奴だということだ。
タカ君なら、きっとその山羊のこどもの肉を食べたよ。」
それから僕は、最後の挨拶を一言一句思い出してみて、
ミケ君が既に僕が純粋な猫ではないと気付いているんだと思うと、
(そうした、猫というもの、なんていう話を僕に対面してぶつけたこと)
ぞっとしないでもない、けど、妙に興奮した、やっぱり、嬉しい気持ちになった。
猫達は急激に成長、いや、進化しているのだ。
感情の機微、善悪。僕らには出来ない世界へ彼らは行く。
今僕がすることは、とりあえず猫達のほとんどに怪我させないで、なるべく早く元の場所に返すこと。
明確な連結や厚い信頼関係を感じていたいというのではなく、
ただ、砂やビーズの一つの粒としてまぎれて、輝くこともなく静かに物事を見ていたいという気持ちだ。
僕が今こうして猫達の群れにまぎれていることも、子供達の味方をしたことも。
召還士という女子に協力するのもそうだ。
僕はもし「彼女」という人に召還されていたなら、きっと何の疑いもなく彼女の味方をした。
そういえば僕は、いじめを見てみぬ振りする。そういう性分なんだろう。
それから集団に紛れさせてもらう代わり、頼まれれば力を貸す。
目立つことはいい気がしないけれど、人に頼られるのはきらいじゃない。
僕はそう、そうして生きることに不満はない。
けれど、そうしたことが産む事象について責任が持てないのが、ちょっとした不安ではある。
僕が十とそこらの頃、僕は不老不死になった。
年老いて死なず、ではなく、年をとらない。
それだから僕はたらたら複雑な術の開発ができた。
多分僕の人生らしい人生という物は、獣化術を完成させるまでだった。
術を完成させるまでは夢中になって、世界中歩き回って知恵を集めた。
今はもう、そんな夢中になれることが思い出せない。
この先はただ、生きるには長い、死ぬ程辛くもあるわけでない、暇つぶしに術を研究してもいい、そんな悪くはない日々がある。
僕自身は、不老不死のデメリットとして、成長出来ないという事が一番大きいと感じている。
僕がせめてもう少し大人になってから術を行使したなら、
(でもそれはない、僕が大人だったなら、大人の味方をしただろうから。)
僕がもし普通の生き物と同じように成長できたなら、と、思うけれども、思うだけだ。
この年から獣化術を完成させ、賢者と呼ばれる僕―
僕がもし普通に成長できたなら、と、大それたことが思い浮かぶ。
でも、獣化術は…小さなミスや、細かな式の加筆修正、を何百年も続ければ
安定した一本筋を通せる、ほとんどそれだけのことなんだったから、
それから獣化術完成の大きなヒントとなった、絶滅した獣人の一種が、僕らの時代にはいたんだから、
さして凄いことでもないんだった。
それが結果的にああして、戦や生命活動の色々に大いに役立ったため、賢者などと呼ばれ英雄視された。
目立つのは好きでないので、当然居心地悪く、又―
僕の出生や、不老不死について触れられるわけにはいけないもので、さっさと身を隠した。
僕の作った術が人々の役に立つのは嬉しい。僕だって人々のうちの一人だ。
けれど僕はいわゆる、善意や利己的な意味でそれをしない。研究が面白いからするだけだった。
求められれば断らない。
ただ、厄介ごとになる気がしたから、身を隠す。
それに、人生らしい人生を終えてしまった僕は、やっとのこと新しい面白いことを見つけた。
---------------
他の猫の国の者達は、最前線まで狩りに出るのら猫達とは違い
いつも自分達が呼び出された場所の付近でのんびりと遊んでいる。
のら達の治療の手が空いたけんじは、久しぶりにその場所へ向った。
やがて着いた滞在地点は、いつのまにか不自然に整頓され
四角形の小広場の中央には、小さなやまになってレンガが積まれていた。
「わあ、これは、なに?」
「あっけんじ!知恵を貸してくれるの?」
「散歩だよ。怪我があったらなおすよ。」
「そうかあ…じゃあ、いいや。これはね、かまどだよ!」
「かまど」
「ここのとこ開発してるんだ。カステラを焼くんだ。」
図書館に忍び込むとはたきでたたかれるんだけれど、と付け加え笑う。
かまど?の周りを一周するように眺めると、マジシャン用かなにか、小さく軽い盾で蓋をされた面を見つける。
その盾をどけ中をのぞいてみるとなるほど、中はススだらけ、しかしパイプを捻じ曲げたエントツらしきものが繋がっており、
関節に楔を打ち込んだアーチ型で接着材料もないのにかなり丈夫そうだ。
「色んな石を集めたね。大変だったろう」
「集めただけじゃないさ。割るんだ、力と角度のコツでね、思ったように割れるんだ」
「へぇ!」
「ってユキがいってた。オイラは材料集めあんましないんだ。
みんな火が怖いっていうから、オイラがずっと実験担当!」
「実験好き?」
「好き!一番わくわくするよ。二番は人間に抱っこされてる時…でもあれは、わくわくじゃないかな?はぁはぁ?」
「みんながよってこないよ」
「火を持ってるからさ。」
「そうかな?」
「発情期がないのはおかしいぜ」
(そういえば、ここの猫はいつのまにか繁殖しなくなったなあ
子供達…僕らは、生殖能力がないまま年をとらないんだから、繁殖はできない。
でも確か、ずっとむかし、王国で子猫を見たことはあったんだ)
「ミケくんには発情期が来るの?」
「こないよ。人間に対するオイラの愛情は、なで繰り回したいというか、マーキングしたいというか、
美味しい物食べて欲しい、笑ってて欲しい、猫が好きならオイラを思う存分可愛がらせてやりたい、とか、親ばかみたいなもんなんだ」
「そっか」
「かわいいぃよね、ニンゲン
あ、何、かたっていいのならニンゲンの魅力についてしゃべろうよ!おやつとってくるよ、ニボシだけど」
「かまどはいいの?」
「よくない。でもこれだって半分はニンゲンに食べさすんだって思って、オイラ作るんだ」
「ミケ君は勤勉だね。こうやって腰をすえてはなしをするようなことが好きだし、本を読むんだって?」
「学習は面白いよ。でも、オイラ、いらいらすることもある。
絵の多い本じゃないと理解できないし、この間けんじが言った、数学やなんかは本当に、
本を読んだり話を聞いてると理解してると思うんだ。
でも実際に問題を解いて見ると、全部間違ってる。猫の脳は小さい」
「脳の大きさじゃないって言うよ。比率なんだって」
「じゃあ猫の世界は小さい。猫の脳はのろま。」
「ミケ君は凄いと思うよ」
「けんじがそういうならそうなんだろう。でも、なんで?」
「のら達は狩るものがなくなるとお互いを切り裂きあうよね?
狩りの練習ということだけれど、実際にあれで命を落とすものだっているんだし。
でも皆ミケ君には手出ししないじゃない。」
「これからはタカがいなくなったから解らないよ。」
晴れ晴れしているようなくちぶりだった。
「仲がよかったの?」
「仲良くないよ。でもオイラたち、本当にちびの頃、同じおっぱいを飲んだんだよね」
「ええ、兄弟なの!」
「ううん。けんじは覚えてるかなあ。
あの鼻の頭が真っ赤なニンゲン、茶色い髪の。あのニンゲンのかちくをいっぱい飼ってる所があって
オイラ達あそこの山羊にお乳をもらってたんだよね」
「たくましいね」
「おいら達だけじゃないよ。色んな猫がかわるがわる来たよ。」
ミケ君が首をかしげる。
「あれ?ああ、そうか。けっこう、好きだったのかも知れない。
オイラ覚えているの、タカだけだ。あそこにいたの―」
「ああ…」
「いやな物を見る目で、会話もしたくないみたいだったけどね
オイラに限らずのら達があまし他の猫に手出ししなくなったのはタカが君臨してからだ。」
「そうなの?」
「ちがうの?」
「しらない。」
「ひいきで見るのかもしれない。」
(ミケ君は猫の死についてなんて思っているのだろう。あるいは、死を知らないのかな。
タカがいなくなっても、邪魔者がいなくなったみたいに、清々した顔して。
昔を懐かしむ様子には、タカがきらいだという風は取れないのに。)
攻略の時間が近くなってきたので、けんじは丘を登る。
猫達と完全に離れたら、もっと効率のよい生き物にでもかわって、一気に駆け抜けよう。
後ろから焦げたにおいとともに、ミケの声が聞こえる。
「けんじはオイラを好きだというけれど、それはオイラが善い奴だからだというなら、
それはちがうよ。」
「そうなの?」
「猫なんてものは、みんなうそつきだ。」
「生き物はそうさ。」
「だけど!オイラ、知ってるんだ。
オイラ達がひっきりなしにがっつくから、あの山羊のこどもは死んでしまったんだよ。」
「…」
「それを覚えているということが、ミケ君が善い奴だということだ。
タカ君なら、きっとその山羊のこどもの肉を食べたよ。」
それから僕は、最後の挨拶を一言一句思い出してみて、
ミケ君が既に僕が純粋な猫ではないと気付いているんだと思うと、
(そうした、猫というもの、なんていう話を僕に対面してぶつけたこと)
ぞっとしないでもない、けど、妙に興奮した、やっぱり、嬉しい気持ちになった。
猫達は急激に成長、いや、進化しているのだ。
感情の機微、善悪。僕らには出来ない世界へ彼らは行く。
今僕がすることは、とりあえず猫達のほとんどに怪我させないで、なるべく早く元の場所に返すこと。
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