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犬の鼻期~鯨吼期

しまった、と思ったと思う、
しまった、なんて思う時は、もう、
やってしまった、手遅れな時だ











連なる崖を駆け、見晴らす
強い風の向こうにくじら君の姿が見えた

夕日のない夕焼けが燃えてあつい
たかる鳥を追い払ってもケン君は死んでいる

僕は墓穴を掘った
そしてケン君を埋めた



「くじらくーん」

「はなせるかい」

「はなせるかい、くじらくーん」












空に空いた暗闇に僕の声は吸い込まれて消えただけだった












同情
同情同情同情
いくらも浮かぶ中でこの言葉が一番僕の口を噛ませる
ケンをなぐさめるな、という言葉を思い出していた

あいつの心中を想像するといたたまれない
僕に出来ることはいったいなんだったろう


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「にゃんだよ、元気ないな」

とたとたとた、栗のイガイガを転がして遊んでいると
ネズミとミミズがやってきた。
ここらの草は音をよくはじくのか、ネズミが木から飛び降りるととた、と音がした。
それが面白いのか、二回ほど三角飛びして音を確かめる。
ミミズはまだぼくの三分の一くらいの大きさしかない子猫をくわえているので遊ばない。

タカ様がいなくなってから…
ボスがああだし、No2もああなので、猫の集会はろくに開かれない
コミュニティなしでは到底満足に食べられないぼく等のような狩り下手のらは
よわいもの同士集まってこうしてこじんまりとした集会を開いた
タカ様やクマ様のように強ければ、立派な肉にも魚にもありつけるんだろうけれど、
ぼく等に捕えられるのは精々カエルや、あと時々鳥の卵、
痩せて親にも見捨てられたようなヒナ、虫、主食はみんなの残飯
そういったえさあつめの中でこの子猫はこの間拾った。
ミミズはおもしろがっていじめ半分に引き連れまわしている。

子猫なんてつれてきたって、とても食べる気にならないし、
養うような余裕もないくせに、ああ、ぼくはおなかが空いていた。
おなかが空くとなんともたよりないような、寂しい気持ちになる。
それにちょっといじわるになる。
ぼくはちびねこを一発軽くはたいた。ミミズが笑う。
たよりない
かえりたい
ママにだっこしてほしい
ミルクあっためてほしい 猫缶たべたいよう


「…ホームシック」

「うわあ」

「ママどうしてるのかな」

「何年経ってるんだよ…あ お前まさか!」

「ばか、会ってないよ!オレはのらだぜ!
 ただこんな風になれない土地に来たら…
 なんていうか、オレはうまれ育ったあの家のすがたが、
 風見鶏が、ミシンの看板が、低い石の階段が、見えないと
 なんだか切ないんだよ…だぜ
 みていないと、思い出せなって行くんだ、においとか、
 ぼくのベッドの毛布の色 みゃう」

「気色わりーなっこの玉無し!」

「うるせぇ!去勢されたんだからしかたないじゃんか!」

「いい加減リボンとれよ、女々しい」

「ち、違う、これはおしゃれだよ!お前らも格好くらいつけろよ!」

「そーいうのがかまっぽいんだよ!」

「それにそれ、狩りの邪魔になるだろ。キラキラ光ってさ」

「ふん、強ければいいんだ、オレがボスになったら、
 玉無しでも立派なのらだってみんなに納得させるんだから
 それからお前らにもおしゃれをさせるからな」

「お前がボスに?」
2人はばかにしたようにニャッハッハ、と笑う
「ザコだぜ、お前!」

「ネズミだってミミズだってザコの殿堂じゃんか!なんだよその名前!」

「ザコじゃなきゃお前なんかとつるんでねえよ…」

「しかたないだろ、名前これしかあまってなかったんだから
 あ、そういえば、レオってどういう意味なんだ?
 てっきりニンゲンがつけた名前だと思ってたんだが、そうでもないらしいな」

「教えたら捕られるから教えない。」

「こいつまじうぜえ」

「はっは、ほらチビ、今からちゃんとおじさん達に立ち向かわないと
 こいつみてーにふぬけなるぞ」

ミミズが笑うと牙が見える。
それを見て子猫は震えている。なんだかむなしい気持ちになった。

「それよりレオ、なんだ遊んでたみたいだが、食料何か見つけたんだろーな!」

「それが栗のいがいがで遊んでたら忘れちゃって」

「あーあ。じゃないかと思った。
 飼い猫どもの忘れっぽさには正直引くぜ!ケンかよ」

「一緒にするなよ!オレはあんな頭悪くないよ!
 っていうか…あいつほんとに猫なの?ほんとの犬みたいだった
 いっつもよだれべとべとで臭かったし 外見も犬みたいじゃない」

「あいつも昔はしっぽ長かったんだぜ。」

「タカ様?」

「違う違う、自分で追い掛け回して噛み千切ったんだ
 何かへんなやつがいるってさー、ぐるぐるぐるぐる、
 噛み付いてなんで自分が痛いのか、
 自分のしっぽに攻撃されてるから痛いと思ったらしーぜ」

「うわあ…ひどいね」

「なんも学ばねーよな。上見て走って崖から落っこちたんだ」

「ばかだなあ」

「あんなのが何でまた急に調子に乗ったんだろうな」

「ばかにばかにされてたんじゃないか?俺達。
 タカ様やクマ様は怖いけど、残りの奴らはのせるってさ」

「腹たつね」

「まぁ、死んだ」



突風がふいた。少しブルッとしたけれど、
それは案外暖かだと感じるもので、それに何だか優しいにおいがした

「春の嵐だ」

「はるの?」

「春一番だ」

「なんだぁ、それ」

「吹くんだ、春には、けんじが言ってた」

「お前またあんな―」
「あ―」

一度目の風が去ったと思ったら、
二度目の風はずっと去らないで、どんどん、強くなっていく。
あまりに強い風が吹くので、僕らは地に足をついてられなくなり
ネズミは地面に爪を立てて何か叫んだけれど
僕の耳には風のごうごうという音が聞こえるだけで、
やがてもろもろと土が崩れて爪は抜けてしまい、ちゅうを引っかくようにしながら空を飛ぶ。
ミミズは自分から爪を抜いて横とびをして、子猫を茂みに突っ込むとそのまま空を飛んでいった。
それに僕は何がおこってるかわからない内のことだった
僕が思ったことは、
げぇっ く 首が
ママがくれたリボンが茂みに強く絡んだ、
何がおこっているのかわからないうちのことだけれど、
リボンが切れてしまうとおもったら、僕はとっさに茂みの中に体を突っ込んだ。









風が止んだ。

いばらで顔が切れて、じんじん痛い
心を落ち着けようと毛づくろいをしてみると
ママの自慢だった毛並みのところどころにハゲが出来てる。
か細い声にはっとして、茂みを除くと切り傷だらけのちびがいた。
強風でいばらが食い込んでしまって、体がこれの痛さを警告している
いばらに手を突っ込むのがいつも異常にこわかった。

空を見上げると、風の先に真っ黒な怪獣の姿が見えた
ぼくは何秒間かはがたがた震えていたけれど、
きいたことのないふかい怪獣の声を聞いたと途端、気を失った。

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