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ホワイトデー記念にNPCをお借りした


「あら」
「お腹がすいたのかしら」


猫が一匹、召還士の少女の下へ歩いてくる。

猫の口にはプレゼントが銜えられているが
それはプレゼントというには簡素な―というか、
ラッピングをする器用さも素材もなかったので
くしゃくしゃの紙袋に入れただけのとても雑なものだった。
猫はそれをぽとっと足元に落とす


「くれるの?ねこに恩返しされるとは思っていなかったわ」

「あ、ごめんなさい。召還士さんのじゃないんだ
 ホワイトデーってことなんだけれど、ネクラマンサーくんにね」

「…」

「やぁ、みんながね、お礼とか、挨拶とか、したいんだよ。」


召還士さんは、顔色こそ変えなかったものの押し黙ってしまって、
何かを考えている。
彼女は彼女なり、真実を伝えるかどうか気を使ったのだろうか。
僕は僕なりに、気を使った。


「知っているよ」
ニャ。

「あら、そう」
ニャ。






「人やものはどうしてこうも滅びるのだろう」

「滅びてやしないわ、知っているんでしょう、彼は依代として…」

「彼のことじゃあなくて、もっと多くのこと」








僕が顔を上げると、挨拶もしないで召還士さんはもうどこかへいってしまっていた。
彼女にも何か、彼女なりの考えがあるのだろうから、
きっと僕は不躾に言葉を投げかけ過ぎた。

人間がいなくなったことを確認すると、
隠れていた猫たちが出てくる。
ピクピクヒゲを動かして、
ものがなしい雰囲気を感じとったと途端、僕の耳を舐めた。


「僕ら本当にそんなんじゃあないよ。お疲れ様っていいたいだけだ。」

「はい。でも君はどうして?」

「タカを殺したから」

「ありがとうって?」

「さあ…強い奴は偉いんだってタカが決めたことだ
 そのタカを倒したんだから 僕ら敬意を表するのが自然だ」

「そっか」


カステラをあげられないから、
張り切っていたユキくんやミケくんは悲しそうに背中を丸めている。


「お供え物にすればいいよ」

「お墓がないもの」

「つくればいいよ」

「遺体も遺品もないんだもの」

「遺したものなら…依代があるけど、」
「もう誰かが使っちゃってるね」

「生きているニンゲンを埋めるの?良くないことだよ」

「そうだね」

「爪の欠片や毛玉でもいいんじゃあない?」

「きっと猫とは勝手が違うよ」







つまるところ、僕らには
埋めるものがなにもない。






「想い出の埋め方の方法は?」

「僕らの間には想い出もない」




結局僕らは相談して、ただの土の山をつくった。
墓あなを堀りもしなかった。
それだけで、なんだか、何の実も結ばない木を見ているようで辛い。
これには、想いも将来もない。
(あ、僕だ。
 だから辛いのかな?
 いや、僕には過去がある、かな。霞がかって遠く
 大した価値もない
 これでも「ある」というのなら。)
風は吹く。
僕は顔も定かでない、一度会ったきりのあの生気のない男に祈った。

どうか君が、強く生きて、或いは死にますことを。
君がもし何もかも無に帰し、滅んだならば、
多く人の語り草となり、人の心の糧になりますことを。









「カステラ、上手く焼けたの?」

「ううん、毛がいっぱい入っちゃうの」

「…嫌がらせになっちゃうよ」

「タカを殺したんだもの。」












 僕は、故郷のお葬式を思い出した。
 今日はお葬式というには、何もかも不十分だけれど。
 (懐かしむことも出来ないひとだ)
 あの頃、大人のいない世界で、
 僕らは火葬の技術をもっていなかった。
 僕らは知恵を出し合って、火葬と歌葬をかけて、歌を歌って弔った。
 (猫たちは歌を知らない)
 昔はステンドグラスでお墓作ったけれど、
 煌いたり風でガタガタ鳴るのをおばけだっていう子が増えたから
 なるべく光を吸収するような重い石材で墓標を立てて―
 (土を盛っただけじゃあ、猫たちにはトイレと変わんないんだもの)

 もともと皆がほんのり知り合いのような小さな国で
 死ぬ人間なんて滅多にいないのだから、
 あの国の人はいつでも死人には同情的だった。
 それで、このまま捨てるのではあんまりだというから、
 僕が防腐処理をしていたんだ。
 
(防腐処理をしたの、今も思い出す
 死体
 御姿、僕らとなんら変わらないものの、異質さ
 あのものに親身になる時のことを思い出すと、
 僕はなんとなくクラム、彼が優しい人間に思えるのだ)
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