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菜園計画

木屑や生ゴミをかき集め、囲い、火をつける。
そこに、火山のものを少しくわえたり、アブラを少しくわえたり、
徐々に黒雲が発生する。
火が消えない程度に透明な蓋をし、黒雲のうずまく様子を眺め、
空気穴から気流を発生させ、そのうねり、時折顔を見せる赤い火を見る。
(夕焼けだあ。夕焼けというのは、天気にもよるけれど、こういう感じじゃあなかったかな。)
僕は昔から、サッカーや野球やという遊びより、こういった箱庭遊びが好きだった。
心躍ることは、誰に止められるものではない。
僕は、食事に出される正体不明の薬品や、腹のたつ書類の類は全て燃やした。
最初こそ鬱憤晴らしのような意味を持っていたが、
徐々に僕は、ある種の錠剤は炎を緑にしたり、という出来事に出会い、それを重ねるうちに、
きらいな食べ物まで、(実験の材料として、)好んで集めるようになっていた。
かき集めた灰をかぶせる、目の痛くなるにおいがしたが、風上ではそれほどでもない。








「けんじ、畑をつくりたいの」

ユリさんとハルくんがそんなことをいって、すすだらけの僕を訪ねた。
朝日がないとどうも朝だという気がしないので、このごろの僕は時間の感覚が適当になっている。
もう日が変わったのかもしれない

「はたけ?」

「畑よ。」

「いいよ、手伝おう。けれど、どうしたの?」

「サラが自慢するんだもの」

「サラさんが」

「サラの暮らしていた家ではね、あそこ―今、ハルくんがたってるところから私の足元までくらいの、小さな庭に
 人間が色んな花を育てていたんだって。
 どんなにきれいな花があったか、どんないい香りがするかって、サラが話すんだけれど」

「それは、自慢とは違うと思うよ」

「けれど、わたし、うらやましいの。」

「うん、うん。けれど、どうして畑なの?」

「うらやましいの、そうしたら、わたし、お庭が欲しいって言うでしょ。
 そうしたら、ミケが食べれるものの方がいいって言って、役にも立つとか、って ね、ハルくん」

「そだよ。それにもしかしたら、あの子、ビジタリアンかもしりゃない」

あの子?ああ、あの子、何にも食べない…

「やあ。あの子猫さんか。ケガはすっかりいいのかい」

「うん、あの子、体は元気みたいなんだけれど、何も食べない。」

「そりから、何も言わないね」

「そうかあ。後で様子を見に行ってみるよ。とりあえず、畑だね?」

「そうそう、私たち畑をつくりたいの。ね、ハルくん」

「ほかにもいっぱいいるよ。手伝ってくれるっていうの」

「へえ」

なにかを育てることに、興味を持つ猫が沢山いるというのは、なんだか、ものごとが良い方向に向っている気がする。
サラさんはきっと、自分のいちばん良い思い出をお裾分けしたかっただけだろうと思うけれど、
そんな気持ちがこうしてユリさんたちを生産的にするのだから、集団というのは好きだ。

「それなら、まず、種がいるね。そして、土を耕すことは、君たちができるね。
 それから、水も君たちでやれるね?すると僕が手助けするのは、光と種か」

「うん、うん。種、見かけた?」

「さあ、ちょっとわからない。けれど、今のら達がいる辺りは植物が多いから、ないってことはないだろう。
 食べられる種で、尚且つ育てやすい種を選んでくるよ。種の改良も僕がしよう」

「種のかいりょう?」

「僕らにとって、マイナスな点をおさえるんだ。病気になりやすいだとか」

「ニンゲンが病気のときは、くすりを飲むんでしょ?」

「それが、食べ物の場合だと、ちょっと勝手が違うかな。こうね、花や実というのは、
(…寿命、といっても猫たちには解らないか)
 季節や時期によって、花開いたり、枯れたりするだろう。
 同じように、季節なんて大きくみなくても、いつも水や、光や、風のめぐりで成っているんだけれど、
 薬品をつかうとね、めぐりが少し、悪くなるというか… それで病気が治っても、味がおいしくなくなったりするから、 
 丈夫であってもらうに越したことはないんだよ」

「ふーん…よくわからない。光は?ここは暗いけれど、元気に育つ?」

「小さな太陽をつくろう。太陽というよりは、星ということになるかな。
 成分が充分な光ということになると、僕じゃ精々、10m立法くらいしか照らせない。
 畑は5,6m平方の範囲でつくって、それから光を反射させるもので囲いを一枚、光を遮るもので囲いを一枚、出来るかい?」

「うん、できるわ。」

「5,6mの四角にたがやせばいいの?」

「そうそう。きっちりでなくていいからね。それじゃ、僕は準備にかかろう。」




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大人の猫が4匹ほど集まって、首を曲げて何だか騒いでいる。
僕も混じって首を突っ込む。すると、直ぐ隣の猫が僕を爪で指差し、

「けんじだよ、子猫ちゃん。さっき言った、なんでもしっている凄い猫だよ」

人垣の中にはレオ君が連れてきたあの子猫がいた。
子猫は、昨日と同じに、僕をまっすぐ見据える。
僕は又どきっとした。
皆があれやこれや、世話焼きな言葉を投げかけるも、まるで耳を貸さない。
しかし皆が話しかけ続けるのは、この子が言葉を理解していることが見て取れるからだ。
例えば、あまりに僕を見るので、「けんじに用があるのか」といえば、視線をそらしてしまう。
きこえているのに、きこえていないように振舞うのだから、
しゃべれるのに、しゃべっていないのではと考えるのだろう。

「名前は?」

「食べたいものは?」

「親は?兄弟は?友達は?」

「何をしたい?」

「遊ぼうよ」


周りの猫たちがやいやいいうたびに、子猫はそっぽを向いてしまう。
それは、こちらに拗ねた様子を見せるのではなく、
とても見つけにくい、心を閉じるようなそっぽの向き方だ。
(仲間のことが気になるの―かな それにしては、冷静だなあ。
 なにを言われても、邪魔くさそうにするだけで―
 こんなに小さいのに、ひとりぼっちにされて、何か思わないのだろうか。
 そうだ、)


「レオ君はいってしまったよ、おちびさん」

もしこの子が追いかけたいというならば、送り届けるくらいはするつもりだ。
レオ君が煙たがれば、また、ここへ連れ戻すかもしれないけれども。
彼って言うのはやさしい猫だし、多分内心喜ぶんじゃあないかなあと僕はへらへら思った。

「あんなふぬけのことはいいよ」

「わ、しゃべった!」

「ふぬけ?」

「ふぬけだ。ふるえて、なくだけだ。じぶんのたべものもとれないねこだ」

「 」


そういった子猫の横顔に、僕は、胸がずきっと痛んだ。目が合ったときよりも、明確で、何より、一層痛かった。
(おとなは、おろかで、悪しく、価値観がかたまってしまっている。
 こどもを、そだてる、力なんて―)
僕は僕を思い出す。
僕は後悔なんてしていない。子供の国は、上手くやっている。
僕の胸が今痛んだのは、この子猫をいたましいと思うことで、
昔の僕を、きずついたかわいそうなものだと連想してしまったからだ。
実際には僕は、きずついたりなどしなかったし、夢中でしたいことをして、
今思い返しても良い選択をして歩んできた。

この子猫は、ほうっておけば死ぬ所を、
レオくんが自分の痛いのを我慢してここまで連れて来たから助かったものだ。
ケガを治療する際に触れた体は、小さく震えていたし、少しさぐれば、喉をどれだけ使ったのかもわかった。
(強がるだけの元気があると思うかな。
 ああ、それとも、ミケくんがいっていたように
 猫なんてものは、皆うそつきなのかもしれない。
 こんな小さな猫であっても、もううそをつきはじめる。
 けれどやはり未熟で、僕にすら見破られる。)
この子も、レオ君と一緒、なのだろうか。ふぬけのほどこしを受けたくないと思うのだろうか。
なら、何故ここをすぐにでも出てしまわないのだろう。
あるいはそれも、うそのうちなのだろうか。

子猫がはじめて言葉を発したので、皆はよりうるさくなる。
僕は直ぐにでも種と太陽との準備をしなくちゃならないことを思い出し、
多少気がかりではあるが、彼が気丈であるのでその場を後にした。

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猫たちは、どこから集めてくるのか真っ白なカーテンやベニヤを担いでくる。
作業は思いのほか順調で、畑はすでに形が出来上がっていた。
僕はユリさん、ハルくん、それから5匹ほどの猫たちに種をわたし、
彼女らが前足で穴を掘り、後ろ足で埋めていく様を見届けた。
僕は彼らがなにかを育てることに興味を持ったのが嬉しく、飽きて欲しくないと思うので、
飛び切り成長のはやい種をつくっておいた。
明日の朝には芽が出るだろうし、見本ということで、既に実を結んでいる苗もいくつか持ってきた。


「けんじ、ありがとう。うれしいな。わたしの畑!」

「ユリのじゃないよ、みんなのだよ!」

「うん、仲良くね。」

「うん、仲良くする!」
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