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菜園計画
「けんじ!芽がでた!」
「そうだねえ」
夜行性のものものを除くと、ユリさんはいつもいちばんに畑に来る。
ここの土壌などのこと、太陽のないことのせいか、
僕の意図に反し半日で芽がでたのはユリさんの蒔いた種だけだった。
ユリさんは胸を張って、でも、心配そうに毎日畑の様子を見に来る。
僕も少し心配していたのだけれど、二日ほど経った今はほとんどの種から芽がでている。
ユリさんが跳ねて知らせにきたのは、蒔いた種の最後のひとつが芽を出したからだ。
畑の世話をする7匹の猫たちはわいわいがやがや、楽しそうにしている。
「こうして見ると、かわいいねぇ」
「きみのは、ぼくの手ほどしかないねぇ。ぼくのは、もうこんなに葉を広げて」
「なんだい、葉なんか。ぼくのは背ぇがおおきいんだからね」
「そんなの、わたしのがいちばん。でも、みんなかわいいねぇ」
「うん、それはそうだね」
「苗のトマトが、そろそろおちてしまう」
「それじゃあ、もう食べてしまいなよ。熟しすぎても具合悪いよ」
------------------------------
朝靄の中、僕は他の猫の集まってこない間に子猫を連れ出し水場へ行く
くわえた子猫は猫としての経験の浅い僕にすら、軽い猫だと解る
首を捕えられ子猫は少し抵抗したが、すぐに大人しくなり、自分のしっぽを噛みはじめた。
この子は結局、あんなふぬけのことはいいよ、あの言葉以降誰とも一言たりと口を利かないらしい。
そして、食べない。二言とはいえ、あの二言、僕とは会話が繋がったのだから
僕は、僕と2人なら、なにか話してくれるだろうかと思い子猫を連れ出した。
僕とも会話をしたがらないようなら、あの時の話題、つまりレオくんについてなら何か話すかもしれない。
そっと水辺に子猫をおろし、軽く健康状態を調べる。
あ、寄生虫を追い出さないと。
僕は何も言わない。
「けんじ」
子猫が口を開く。
「なんでもしっているねこ」
ゆっくりと顔を上げる。
「僕に尋ねたいことがあるのかい」
「そらをとぶばけものをしっているか」
なるほど。
「よくしっているよ。なにが知りたい?」
「しっていることは、すべて」
「そうだなあ、君に解ることかどうかは、解らないけれど、」
「あれは風船のような物なんだ。
ちょうど風船―ガムのように、ひきのばしているもので、中は全くの空洞なんだよね。
それでも、重力に反対する為の力のほかに、自ら軌道を選択する、空を泳ぐ器官は作られている。
その為の瞳や、幾らかの筋肉に似た物、だ。
それらがある分、ただ浮いているのとは桁違いにエネルギーを使う。
そうしたら、エネルギーを得なければ長く生きていられない。
君は見たのだろうね、あれが生き物を飲み込むのを。
あれに咀嚼の力と器官は無く、その分食べ物を体外に逃がさないよう
体の壁面はかなりの強度になっている。
体自身が大きな胃袋ということになるかなあ
そしてじわじわと生き物のエネルギーを吸って、生きていくのだけど―」
その、生き物のエネルギーを吸う、魔術式。
本来なら彼の胃袋の壁面に設置すべき魔法であるが、
僕はまだそれを施していない。
というのも、術式の設置をするにはどうしたって彼の体内に入る必要があるのだから、
僕は一度食べられ、吐き出されなければいけない。
僕は目覚めた彼にその旨を語りかけた。
その言葉が彼に届いたかどうかは、今になっては解らない。
「話せることは多くあるから、気になる所があるなら、口を挟んで言ってね」
「… …」
「それから、あれの五感は―」
「どこにいるんだ」
「居場所かい、それなら、あんな大きなもの、すぐに見つけられるだろう。
ここよりずっと向こうの草原の空に」
「そらはとおいか」
「空は、遠いね。ここから草原より、遠いかもしれない。」
「… …」
僕はどきっとした。
子猫の体、しっぽの所から、血が出ている。
先ほど、僕が運んでいた時、噛んでいた場所だ。
「草原へいくなら、何か食べたほうがいい」
「たべているよ」
「えっ、そうなの」
「ぼくのたべるものは、ぼくでよういしてるよ。
あんなもの、たべられない」
「…ふぬけのものだからかい?」
「へんだからさ」
「へん?」
「とかげや、むしは、あばれる」
僕は黒く広がる、彼の瞳をみる。
瞳の奥は黒く澄んでいて、瞳の膜は白く濁っていて、
途方も無い、寂しい、死人のような目がそこにある。
目が語らないのではなく、語ることを拒否する目
至って冷静な、そしてなにより、深く根ざした、なにか、強いものを持っている、目
僕は、直感した。
「君は、僕らが思っているよりずっと、大人なんだね。」
「… …」
空を見上げる。
暗くくもって、てっぺんがどこか解らない。
いつか、もっと美しい明かりの元で、痛ましい彼の傷を、見れたらと思う。
僕はなんだか、胸の痛みがひいた。
「そうだ、君は、君の好きにしたらいい。君は、」
君には、
君には才能がある。
「?」
「才能というの、解るだろうか。
実際、子供というものは、ほぼ例外なく天才だ。
子供は皆、なにかしかの才能を持っている。
けれどそれは、多く、大人に、周囲、世界に、壊されてしまう物だ。
僕はそんなのはいやだ。君は、君の才能を大切にしてくれ」
「ぼくの、さいのう?」
「君の、才能。」
それが、身を置く世界にとって、善となるとも悪となるとも
人々の多くが、牛や豚の解体をしないまま一生を終える。
ニワトリの首を絞めると、僕の気は滅入る。
子供の国の、精肉係の、立派な背中を思い出す。
誰もしたくないが、誰かがしなければいけないことを、まっすぐな目で引き受け、
いつしか慣れる日が来るまで、目をそらさないでいられる、友人の事を。
---------------------------------
昼頃、広場は騒然としていた。
いやな空気に僕がかけつけると、畑はすっかり引っ繰り返され
苗も芽も、ぐちゃぐちゃに踏み潰されているのだった。
「また、つくり直せぱいいよ。ねぇ、ユリ」
ハルくんが折れた苗を、崩れたトマトを、囲いの隅に片付けていく。
僕は、ほんの少しだけ、心の奥に、塩の結晶くらい小さくて苦い怒りが芽生えたけれど、
それはすぐに溶けてしまった。
「君は、君の好きにしたらいい。」
子猫は、悪事のばれたことをか、少し震えるも、表情を変えないで背を向ける。
「うたがうのか」
「うたがうんじゃない。証拠、確証がなけりゃ僕はこんなこと思いもしない。
僕にばれる要素があるんだ、みんなも気付く。
こんなの、すぐ、ばれるよ」
「だったら、それでいい。」
「そう。けれど、どうしてこんなことをしたの?」
「あんなの。」
それだけ言って、子猫は駆けていく。
子猫の面倒を見ようとしていた大人たちが呼び止めるが、
聞かず、弾丸のように駆けていく。
僕は呟く。
「…草原へ行くんだろうか」
「草原?」
「ああ、もっと遠くにね、草原があるんだ。」
「あんな小さいのに、そんな遠くへ行けやしない。あの子を探してこなきゃ」
「いや、いいよ。僕ら、今朝ちょっと2人で話したんだ。」
「あの子、口を利いたの?」
「うん」
「あの子、かわいそうな子だよ」
「彼は、とても利発な子供だよ」
「寂しいのに、素直になれないんだ そう言っただろう?
こんなところで、知らない猫ばっかりで、すっかり怯えて」
「いや、あの子、そんなんじゃない。」
「とにかく、僕らがなにか余計な力を加えるのはよくないだろう」
「余計なことなわけ、ないじゃないか!あの子は―」
「ごめんなさい、余計なんだ、きっと」
「どうしてそう思うの」
「たとえば、
かけっこの早い子が、勉強で椅子に縛られる。
お歌のうまい子が、汚い言葉で歌わなくなる。
僕らは、良く気をつけていないと、すぐにそうしてしまう」
「…僕が行くよ、心配しないで、大怪我なんてさせやしないから」
「つれて帰ってくるだろう?」
「ん」
「きっとだよ」
「きっと」
僕は、直感した。
あの子は、人の世の言う所の、殺人鬼になるべくしてなる。
それが、身を置く世界にとって、善となるとも悪となるとも、
ものを殺す才能に恵まれているのだ。
大抵のものは、何かを直接、自らの手で殺す時、
プラスにしろマイナスにしろ感情が高ぶってしまう。
それの無い生き物が、極稀に産まれる。
あの子をここにつれてくる事は二度とないだろう。
次の日から、ユリさんは畑に来なくなってしまった。
僕は、申し訳ない気持ちになった。
「そうだねえ」
夜行性のものものを除くと、ユリさんはいつもいちばんに畑に来る。
ここの土壌などのこと、太陽のないことのせいか、
僕の意図に反し半日で芽がでたのはユリさんの蒔いた種だけだった。
ユリさんは胸を張って、でも、心配そうに毎日畑の様子を見に来る。
僕も少し心配していたのだけれど、二日ほど経った今はほとんどの種から芽がでている。
ユリさんが跳ねて知らせにきたのは、蒔いた種の最後のひとつが芽を出したからだ。
畑の世話をする7匹の猫たちはわいわいがやがや、楽しそうにしている。
「こうして見ると、かわいいねぇ」
「きみのは、ぼくの手ほどしかないねぇ。ぼくのは、もうこんなに葉を広げて」
「なんだい、葉なんか。ぼくのは背ぇがおおきいんだからね」
「そんなの、わたしのがいちばん。でも、みんなかわいいねぇ」
「うん、それはそうだね」
「苗のトマトが、そろそろおちてしまう」
「それじゃあ、もう食べてしまいなよ。熟しすぎても具合悪いよ」
------------------------------
朝靄の中、僕は他の猫の集まってこない間に子猫を連れ出し水場へ行く
くわえた子猫は猫としての経験の浅い僕にすら、軽い猫だと解る
首を捕えられ子猫は少し抵抗したが、すぐに大人しくなり、自分のしっぽを噛みはじめた。
この子は結局、あんなふぬけのことはいいよ、あの言葉以降誰とも一言たりと口を利かないらしい。
そして、食べない。二言とはいえ、あの二言、僕とは会話が繋がったのだから
僕は、僕と2人なら、なにか話してくれるだろうかと思い子猫を連れ出した。
僕とも会話をしたがらないようなら、あの時の話題、つまりレオくんについてなら何か話すかもしれない。
そっと水辺に子猫をおろし、軽く健康状態を調べる。
あ、寄生虫を追い出さないと。
僕は何も言わない。
「けんじ」
子猫が口を開く。
「なんでもしっているねこ」
ゆっくりと顔を上げる。
「僕に尋ねたいことがあるのかい」
「そらをとぶばけものをしっているか」
なるほど。
「よくしっているよ。なにが知りたい?」
「しっていることは、すべて」
「そうだなあ、君に解ることかどうかは、解らないけれど、」
「あれは風船のような物なんだ。
ちょうど風船―ガムのように、ひきのばしているもので、中は全くの空洞なんだよね。
それでも、重力に反対する為の力のほかに、自ら軌道を選択する、空を泳ぐ器官は作られている。
その為の瞳や、幾らかの筋肉に似た物、だ。
それらがある分、ただ浮いているのとは桁違いにエネルギーを使う。
そうしたら、エネルギーを得なければ長く生きていられない。
君は見たのだろうね、あれが生き物を飲み込むのを。
あれに咀嚼の力と器官は無く、その分食べ物を体外に逃がさないよう
体の壁面はかなりの強度になっている。
体自身が大きな胃袋ということになるかなあ
そしてじわじわと生き物のエネルギーを吸って、生きていくのだけど―」
その、生き物のエネルギーを吸う、魔術式。
本来なら彼の胃袋の壁面に設置すべき魔法であるが、
僕はまだそれを施していない。
というのも、術式の設置をするにはどうしたって彼の体内に入る必要があるのだから、
僕は一度食べられ、吐き出されなければいけない。
僕は目覚めた彼にその旨を語りかけた。
その言葉が彼に届いたかどうかは、今になっては解らない。
「話せることは多くあるから、気になる所があるなら、口を挟んで言ってね」
「… …」
「それから、あれの五感は―」
「どこにいるんだ」
「居場所かい、それなら、あんな大きなもの、すぐに見つけられるだろう。
ここよりずっと向こうの草原の空に」
「そらはとおいか」
「空は、遠いね。ここから草原より、遠いかもしれない。」
「… …」
僕はどきっとした。
子猫の体、しっぽの所から、血が出ている。
先ほど、僕が運んでいた時、噛んでいた場所だ。
「草原へいくなら、何か食べたほうがいい」
「たべているよ」
「えっ、そうなの」
「ぼくのたべるものは、ぼくでよういしてるよ。
あんなもの、たべられない」
「…ふぬけのものだからかい?」
「へんだからさ」
「へん?」
「とかげや、むしは、あばれる」
僕は黒く広がる、彼の瞳をみる。
瞳の奥は黒く澄んでいて、瞳の膜は白く濁っていて、
途方も無い、寂しい、死人のような目がそこにある。
目が語らないのではなく、語ることを拒否する目
至って冷静な、そしてなにより、深く根ざした、なにか、強いものを持っている、目
僕は、直感した。
「君は、僕らが思っているよりずっと、大人なんだね。」
「… …」
空を見上げる。
暗くくもって、てっぺんがどこか解らない。
いつか、もっと美しい明かりの元で、痛ましい彼の傷を、見れたらと思う。
僕はなんだか、胸の痛みがひいた。
「そうだ、君は、君の好きにしたらいい。君は、」
君には、
君には才能がある。
「?」
「才能というの、解るだろうか。
実際、子供というものは、ほぼ例外なく天才だ。
子供は皆、なにかしかの才能を持っている。
けれどそれは、多く、大人に、周囲、世界に、壊されてしまう物だ。
僕はそんなのはいやだ。君は、君の才能を大切にしてくれ」
「ぼくの、さいのう?」
「君の、才能。」
それが、身を置く世界にとって、善となるとも悪となるとも
人々の多くが、牛や豚の解体をしないまま一生を終える。
ニワトリの首を絞めると、僕の気は滅入る。
子供の国の、精肉係の、立派な背中を思い出す。
誰もしたくないが、誰かがしなければいけないことを、まっすぐな目で引き受け、
いつしか慣れる日が来るまで、目をそらさないでいられる、友人の事を。
---------------------------------
昼頃、広場は騒然としていた。
いやな空気に僕がかけつけると、畑はすっかり引っ繰り返され
苗も芽も、ぐちゃぐちゃに踏み潰されているのだった。
「また、つくり直せぱいいよ。ねぇ、ユリ」
ハルくんが折れた苗を、崩れたトマトを、囲いの隅に片付けていく。
僕は、ほんの少しだけ、心の奥に、塩の結晶くらい小さくて苦い怒りが芽生えたけれど、
それはすぐに溶けてしまった。
「君は、君の好きにしたらいい。」
子猫は、悪事のばれたことをか、少し震えるも、表情を変えないで背を向ける。
「うたがうのか」
「うたがうんじゃない。証拠、確証がなけりゃ僕はこんなこと思いもしない。
僕にばれる要素があるんだ、みんなも気付く。
こんなの、すぐ、ばれるよ」
「だったら、それでいい。」
「そう。けれど、どうしてこんなことをしたの?」
「あんなの。」
それだけ言って、子猫は駆けていく。
子猫の面倒を見ようとしていた大人たちが呼び止めるが、
聞かず、弾丸のように駆けていく。
僕は呟く。
「…草原へ行くんだろうか」
「草原?」
「ああ、もっと遠くにね、草原があるんだ。」
「あんな小さいのに、そんな遠くへ行けやしない。あの子を探してこなきゃ」
「いや、いいよ。僕ら、今朝ちょっと2人で話したんだ。」
「あの子、口を利いたの?」
「うん」
「あの子、かわいそうな子だよ」
「彼は、とても利発な子供だよ」
「寂しいのに、素直になれないんだ そう言っただろう?
こんなところで、知らない猫ばっかりで、すっかり怯えて」
「いや、あの子、そんなんじゃない。」
「とにかく、僕らがなにか余計な力を加えるのはよくないだろう」
「余計なことなわけ、ないじゃないか!あの子は―」
「ごめんなさい、余計なんだ、きっと」
「どうしてそう思うの」
「たとえば、
かけっこの早い子が、勉強で椅子に縛られる。
お歌のうまい子が、汚い言葉で歌わなくなる。
僕らは、良く気をつけていないと、すぐにそうしてしまう」
「…僕が行くよ、心配しないで、大怪我なんてさせやしないから」
「つれて帰ってくるだろう?」
「ん」
「きっとだよ」
「きっと」
僕は、直感した。
あの子は、人の世の言う所の、殺人鬼になるべくしてなる。
それが、身を置く世界にとって、善となるとも悪となるとも、
ものを殺す才能に恵まれているのだ。
大抵のものは、何かを直接、自らの手で殺す時、
プラスにしろマイナスにしろ感情が高ぶってしまう。
それの無い生き物が、極稀に産まれる。
あの子をここにつれてくる事は二度とないだろう。
次の日から、ユリさんは畑に来なくなってしまった。
僕は、申し訳ない気持ちになった。
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